ハッ!Train

《BW君のよもやま話 〜あの鐘を鳴らすのは…〜》

青山れい  10月26日。下北沢のライブハウス〔クラブ251〕は、この日のアコースティック・ライブを楽しみにやってきたSKiのファンたちで埋め尽くされていた。
 このライブでは、新人に経験を積ませるという意味合いから、入って日の浅いメンバーやレッスン生を本編が始まる前に観客の前に立たせ、何曲かを歌わせていた。今日もレッスン生が、譜面台に置いたアンチョコ(カンニング・ペーパー)を横目にして歌っている…。
 「昨日の伊藤嘉代子は、あまりに近い観客との距離に少しおびえていたような気がするなぁ。麻井玲那は、節回しが ちょっと面白いし中高音がまあまあだから、レッスンさえ積めば…」。そんな思考を断ち切るかのように、レッスン生に代わってステージ上へと現れた一人の娘。と、同時に流れるイントロダクション…。

 その瞬間、私は驚いた。
 カテドラル(礼拝堂)のパイプオルガンを思わせるメロディ…。
 『ウエディング・ベル』のイントロが流れてきたからである。
 ステージの上には、おそらく彼女にとって今までに経験したことの無い状況で、最前列に陣取っている聴衆たちを少し緊張した面持ちで見つめる、川野朋美=写真右=の姿があった。
 二代目リーダー・青山れい=写真右=の手により書かれたこの歌は、SKiナンバーとしては極めて異例な「少女の、大人の異性への憧れと恋心」というドラマが描かれている。
 数あるナンバーの中で「好きな曲は?」「完成度の高い曲は?」と聞かれたならば、私は少し考える時間を求めると思う。
 しかし「一番美しい曲は?」と聞かれたのならば、私は即座に『ウエディング・ベル』と答えるであろう。
 私は今でも覚えている。95年夏の大阪公演で一期生と二期生をバックに従え、この曲を歌う青山れいの姿を。多少、音程やリズムが狂ってもそれを有無とも言わせない迫力というか、恐ろしいくらいの神々しさを…。
 率直に言って、歌唱力という点において彼女は、この楽曲を完全に歌いこなしているとはいえなかった。しかしこの曲は、おそらく10人に聞いたら、10人全てが答えるであろう【青山れいの歌】なのである。
 私の思い込みかもしれないが、数あるナンバーの中でもこの曲だけは、ステージにおいて歌う者の持つ全ての表現力 〜歌唱やルックスのような、目や耳で直に触れることのできる能力だけではなく、全身から心にダイレクトに突き刺さってくるような魅力〜 というものによって、初めて生命(いのち)を吹き込まれる楽曲なのだと思う。
 “楽曲の方が歌う者を選ぶ”唯一のSKiナンバーであり、誰が歌っても良いとは絶対にいえないシロモノなのだ。

   「♪ いつか夢見た白い服着て、海岸線を歩く…。」

その瞬間、私の頭の中で二つの気持ちが沸き上がった。
 一つ目は、「※1博子が歌うのならまだ分かる。でも、なぜ朋美が…。この歌は、まだまだ経験の浅い娘に歌わせるような歌じゃないぞ。何てコトするんだよ、スタッフは…。」という、怒りにも似た反感。
 そしてもう一つは、今年3月公演のMCで、「※2『ウエディング・ベル』の振りをやりたい」と言った川野朋美の言葉を聞いた瞬間に何となく感じた、「この先、この曲を歌い継ぐ者がもし出てくるとしたら、朋美かなぁ…」との予感が、この日の出来いかんによって現実となるかもしれないという驚きであった。

川野朋美  あの時なぜ、入って間もない四期生の川野朋美=写真右=に対してこのような予感を抱いたのであろうか。それはもう、長年ステージを見続けてきた者の直感としか言いようが無い。
 しかし、全く根拠無くしてこのように感じたわけではない。
 3月時点のステージで、既に7人の四期生(当時)を引っ張る立場に立っていたこと、そして何よりも、 芸能人として他人からは決して与えてはもらえない才能、要するに「華」があると感じたからである。
 私はじっと彼女の目を見据え、音の一つ一つをじっくりと聞き込んだ。率直に言って、音程を取るのがまだまだ不安定である。
 それ以外にも要求したくなることは数多い。

 しかし、この楽曲を表現する最大のポイントである、「きちんとリズムを取り、ピシリと発音をする」というのができていたのには驚いた。「ひょっとして、これならイケるかも…」。再び私の心の中に、新たな予感が芽生えたのであった。
 才能はただ持っているだけではダメである。こいつを伸ばし、皆に見せていかなければ何の意味もない。過去に私は、もう何人も類希な才能を持ちながらも、花開くことなく消えていった者たちを見ている。
 彼女がこの先、どのような道を進んでいくかは分からない。
 しかし、私たちはどの道を進んでいくかをしっかりと見据え、叱咤激励しながら成長を見守っていこうではないか。無論、これは川野朋美だけではない。他のメンバー、特に四期生においても同じである。それがライブ・アイドル[制服向上委員会]のファンの一つの役目であり、また醍醐味なのである。

   「♪ ウエディング・ベルが聞こえてくるから、幸せを祈ってる…。」

 いつの日か、青山れいを超える川野朋美の『ウエディング・ベル』で私達を魅せてくれるその瞬間が来ることを、私は信じている…。

※文中、敬称略で書かせていただきました。

[文:大阪府/Be-Wave]

[カメラ:大阪府/ブルー・ウェイブ]

※1 10月25日のライブで、本田博子は『ウエディング・ベル』を歌った。しかし…。


※2 今年3月23日、横浜教育会館にて行なわれた《史上最強のSKiコンサート》でのこと。四期生を集めてのMCで、菊地彩子に「歌ってみたい歌」を聞かれた彼女は、こう答えたのである。ちなみに、麻井は「『ウエディング・ベル』を歌いたい」と言い、伊藤・中井は何も答えなかった。



97年11月号目次