last update:1999/07/07
東方.見.聞.録 [CD・ビデオ・ブック・TVレビュー]


 Album 『今こそ立ち上がれ』  (99・5・1発売)

 昨年までの主力メンバーが去った後の、99年版SKiメンバーによる初のフル・アルバムである。
 長らくファンさんたちから待望されていた、伊藤嘉代子・中井祐子初参加のアルバムであり、遠藤舞香初のソロ・ナンバーも入った、なかなか意欲的な作品になっている。
 遠藤舞香ソロ「パリの恋人」は、チト類型的な詞ではあるが、かつてのミッシェルのセンスが復活したのが嬉しい。
 橋本美香作詞の「ずっと忘れない」は、寄合歩独特の、音を一つ一つ拾いながら歌うような唱法が実にマッチしている。
 ファルセットの歌声に、伊藤嘉代子のキャラクターがにじみ出ている「あなた」は、かこちゃん一推しのファンさんには涙モノであろう。(思いっきりエフェクトをかけているのには…、だが)。
 こうして、このアルバムに収録されている1曲ずつを見ていくと、首を傾げざるを得ないセンスのものも中にはあるが、各曲ごとの出来は悪くない。

 しかし、アルバム全曲を通して聴いてみると「なんだか違うなあ」と感じてしまう。
 私は、このアルバムには納得が行かなかった。なぜなら、このアルバムの中には2つの違ったコンセプトが同居しており、それが互いに噛み合っていないためにアルバム全体としてちぐはぐと言うか、心地の悪い違和感を生み出しているからなのである。
 このアルバムの2つの違ったコンセプトとは、一つは従前からの“アイドルソング”言うならば正統派の『アイドル路線』である。そしてもう一つは、昨年から急速に推し進められている“ストレートなメッセージソング”高橋P流の『ロック路線』と言うべきものだ。「パリの恋人」「ずっと忘れない」「あなた」と言った曲が『アイドル路線』の楽曲であり、「今こそ立ち上がれ」「Forever Young」「黒い瞳」と言う楽曲が『ロック路線』である。
 これは以前に『KS3』に書いたことだが「アイドル路線とロック路線の協調は不可能に近い」ことで「相当な覚悟を持ってやらなくてはならないこと」なのである。
 果たして、現在の制服向上委員会の実力でそれを「皆が納得するようなレベルで」やってのけることが可能なのであろうか?
 率直に言って、このままではそれはムリだろう。なぜなら橋本美香以外のメンバーたちは「上手に歌うこと」「失敗しないこと」だけに終始してしまっている感がするからである。
 もちろん、それもとても大切なことである。大切なことなのだが、そんなことではとてもじゃないが『ロック路線』なんてムリだし、まして「アイドル路線とロック路線の協調」なんて、絵に書いたモチで終わるであろう。

 このアルバムの歌詞カードの裏に『KEEP ON ROCK SPIRIT』の文字がある。
 この言葉を借りて表現するならば「形だけの『ROCK SPIRIT』に終わってしまっていること」。これが「何とも心地の悪い違和感」を生み出し、このアルバムが不十分な出来となった原因だと思う。
 このアルバムが「実力もロクに無いくせにメディアによって祭り上げられた“隅像的”なアイドル」のアルバムだったならば、十分に合格点が与えられるであろう。
 形だけでしか『ROCK SPIRIT』とやらを表現出来ないのならば、無駄な抵抗はやめて高橋Pの趣味ではない元の『アイドル路線』一本に戻すべきである。それならば現状でもかなりマシな物が出来るはずだ。

 では「アイドル路線とロック路線の協調は、絶対に不可能」なのであろうか?
 そんなことはない。要は「やる以上は、徹底的にやる」本気が欲しいのだ。
 とにかくやる以上は、中途半端ではいけない。メンバーたちはすべてにおいて自分たちのやるべきことをきちんと把握すべき(それがメンバー各人の嗜好に合うかどうかは別として)だし、スタッフは自らのプロデュース方針を、メンバーたちに、もっとしっかりと認識させないとダメだ。
 それが出来てこその『ROCK SPIRIT』であり、歌唱力をも凌駕する、楽曲の説得力が生まれてくるのである。
 それが出来ないのならば、もはや『制服向上委員会』が、芸能界に存在する意味はない。
 昔と違って現在は『娘。』『MISSION』『チェキッ娘』など、いくらでも代わりがいるのだから。
 もっとも、一部ファンさんの「遊び道具」としての存在に堕したままで良いのならば、このままでも構わないのだが、それでは一生懸命活動を行なっているメンバーも、まじめにSKiを応援しているファンさんたちも、全く救われない。
 制服向上委員会の『存在』が少しずつ危うくなってきている今、メンバーもスタッフも、そしてファンも、みんなもっとプライドを持たないといけないと私は思う。
 「今こそ立ち上がれ!」
[編集長/ブルーウェイブ]



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